「30歳までに経営幹部になれるキャリアの作り方」バックナンバー

30歳までに経営幹部になれるキャリアの作り方

第2部第4回:ケーススタディ4=大手外資系コンサルパートナーD氏

実録!経営幹部行きキャリア 成功と失敗のケーススタディ

今まで、「第1部 経営幹部を目指す人のキャリア設計の考え方」という形で進んできたが、第2部として「第2部実録!経営幹部行きキャリア 成功と失敗のケーススタディ」ということで、私が今まで会ってきたさまざまな人々の事例を参考に、そのキャリアにおける成功と失敗の理由について考察してきている。
なお、各人のプライバシーを守るため、これらキャリア事例は似たキャリアを持つ複数人のものをベースに典型的なケースモデルに再編集しているのであしからずご理解いただきたい。

今までのところは、コンサルタント出身者でビジネスを成功に導いたA氏とビジネスの先が見えなくなったB氏、国内のIT系企業で副社長としてバリバリ変革経験を積んでいるC氏を紹介した。今回は大手外資系コンサルパートナーのD氏を紹介する。

1)D氏の経歴

18歳〜 学生時代にスポーツ同好会のリーダー経験
 学生時代は有名私立K大学にてスポーツ同好会のリーダーを経験していたとのこと。頭も冴え、リーダーシップも取れる優秀な人材であったようだ。

22歳〜 大手外資系コンサルティング会社に入社
 学校を卒業し、早い段階で責任と権限を任せられ、かつ当時成長が著しかった大手外資系コンサルティング会社に就職した。同期の中での成績は優秀で、トップ3には入っていたと聞く。いくつかのシステム開発プロジェクトのメンバーからスタートし、システムエンジニアとして仕事を普通以上にこなしていたようだ。

28歳〜 大きなパッケージソフト導入プロジェクトのマネジャーを歴任
 ERP(統合型業務パッケージソフトウエア)の研修を他のメンバーよりもいち早く受けるチャンスを得たD氏は、その知識を活かしながら大手製造業向けのERP導入プロジェクトに配属になり、そのプロジェクトマネジャーを成功と失敗を重ねながらもいくつもこなすことになる。また、このコンサルティング会社の主力サービスのひとつとして、このERP導入支援サービスが位置づけられることになり、D氏は多くのコンサルタントを育てながら、自分の組織を更に大きくしていくこととなる。
 かなり多くの後輩を育てる中、「コンサルタントというものはだなあ〜」とか「俺が一旗あげたら多くのやつが集まってくる」などといった自信満々な発言が散見されたが、実際に多くのERPコンサルタントが彼の元に育成されていったことは事実である。
この当時はERPのコンサルティングができる会社が多くないため、あまり競合もなく、ERPパッケージの販売会社から案件が継続的に紹介される状態で、D氏はマーケティング、サービス開発、新規開拓営業の経験がほとんど無いまま組織はどんどん大きくなっていったことになる。

37歳〜 外資系コンサルティング会社パートナーに
 いくつかの大きなERP導入プロジェクトを成功裏に収め、また、約200人のコンサルティング組織の長になったD氏はついにパートナーの座を手にした。高い給与と多くの後輩を持ち、ここまでの彼のキャリアはとても順調であったといえる。

38歳〜 トラブルプロジェクトに何度も配備され位置づけが怪しくなる。
 システム導入プロジェクトの常であるが、大型であればあるほどプロジェクトトラブルに見舞われることになる。D氏の足元のプロジェクトトラブル対応は勿論、D氏以外のパートナーが担当していた大型ERPプロジェクトのトラブル対応につぎつぎとD氏は翻弄されることになる。
 いくつかのプロジェクトの火消しは成功するが、逆にいくつかのプロジェクトに対する火消しは力及ばず撤退で、他のパートナーに引き継ぐことになる。しかしながら、「コンサルタントというものはだなあ〜」などの強気な発言は相変わらずで、このようなことを繰り返していくうちに、D氏に育てられていた部下の心も「この人は偉そうだけれども、問題を解決できない人かもしれない」と、だんだん離れていくことになる。

40歳〜 パートナーとして高給を取ってはいるが、動きようが無い状態
 結局現在のところ、D氏はこのコンサルティング会社のある領域の担当パートナーとして、継続的に提案活動をしたり、育成活動したり、プロジェクト管理をしたりしている。かつての多くの部下は同じパートナーとして昇進したり、他の会社に転職してキャリアアップしているが、D氏自身のキャリアアップは今のところ周りから見てもほとんど見られない状態。
 若いころに新規サービスの開発や新規顧客開拓をした経験が無いので、与えられたサービスの範囲でしか仕事したことがないのが社内でのキャリアアップを阻害しているのかもしれない。
 ましてや、他のコンサルティング会社に移ったとしても、「ERPコンサルのマネジメント」というスペシャリスト領域から脱出できないのであれば、今の会社にいたほうが過去の資産(後輩などの人間関係や社内の知名度)を活用できる分まだましと思われる。
 
 当初思いのほかキャリアをアップさせたが、結果的に見ると同期に追い越されながらいまの立場に落ち着いてしまっている。この際、給料下げてでも新しいビジネスに飛び込み、新天地でやり直す方策などもいつも考えるが、いったん高い給料で生活してしまうとなかなか勇気が出ない。残念ながら「一旗あげること」はこのペースでは誰が見ても無理な感じである。

2)彼のキャリアから学ぶべきもの

A)与えられたことのみやっていると、自分で開拓する能力がつかない
 D氏の場合、当時、急速に事業が成長したERP事業のリーダーができたことが、とても幸運であった。その後もこのキャリアに乗って、ERPコンサルタントを多数育成してきたのも評価できる。
 しかしながら、彼のキャリアの中で、マーケティング・サービス開発・新規開拓営業の経験、つまり、「なにか世の中でも、顧客に対してでもいいのだが、自分自身で、課題を見つけ、作り出し、顧客に売り込んだ経験があるかどうか」がほとんど見受けられないようである。それまで、ERPのメンバー育成やトラブルプロジェクトが与えられてきたから、まだ活躍するチャンスもあったと思われるが、与えられることが停止すると、D氏の価値も同様に下がっていく可能性が想定される。
 旬のあるニッチな技術は早く立ち上がるが、廃れるのも早い、旬をものにするのは重要だが、例えばより汎用な周辺技術への転換など、何らかのブレークスルーを自分自身で創造することが必要と思われる。たとえば、トラブルが起きないプロジェクトマネジメントの視点で新たなソリューションでも開発するとか、それまでのERPの使い方を超える新しいソリューションを創造するなどいろいろありうるのではないか?(私の勝手な仮説だが)

B)ラッキーで昇進しすぎると後が無い
 D氏はラッキーもあいまって、いい成績を上げることができ、この成績のおかげで一気にコンサル会社のパートナーまで駆け上がった。会社の側から見れば、彼のやってきたことは、その規模から見てもパートナーとしての報酬に値する貢献をしてきたことになるが、D氏の最終能力は「トラブルプロジェクトの解決」であり、コンサル産業における市場価値からみると、パートナークラスというよりシニアマネジャークラスである。
 このような現在の報酬と市場価値がアンマッチの場合、自社内で、かつ自力で自身の市場価値を引き上げないと、一生動けなくなる可能性が高い。また、たくさん報酬をもらっていると、「自分がうまくできている」と勘違いして努力するきっかけを失うリスクがある。
 もともと、知恵もあり能力の高いD氏がもし、まだ「一旗あげたい」と思っていて、また、やり切れる自信があるのであれば、多少給料下げてでも、新しい環境に身をおいて新しい事業立ち上げにチャレンジしてみるのも一つの方策かもしれない。

今回の失敗事例を簡単にまとめると、この図のようになる。


 今回は「第2部 実録!経営幹部行きキャリア 成功と失敗のケーススタディ」の第四回ということで、企業の中で、ラッキーにキャリアアップできたが、その後伸びずに、相対的にキャリアを落としていった人の事例を紹介した。次回は、企業を転々としながら、相対的にキャリアダウンして行った事例とともに、なんでうまくいかなかったのか考察する。

*注:なお、各人のプライバシーを守るため、これらキャリア事例は似たキャリアを持つ複数人のものをベースに典型的なケースモデルに再編集しているのであしからずご理解いただきたい。

ミニテスト2〜4


第一問:D氏が成功した理由はなぜか?
第二問:D氏が伸び悩んだ理由は何か?
第三問:D氏がこの状態から切り抜けて一旗あげるにはどのような経験が必要か?

前回(連載第2部第3回のミニテストと模範解答)
第一問:C氏が成功した理由はなぜか?2つ挙げよ。
A1:
「粘り強いチャレンジ精神」と「顧客獲得能力と社員養成能力」

第二問:C氏の国内IT会社における今までのチャレンジを2つ挙げよ。これからのチャレンジを2つ挙げよ。
A2:
それまでのチャレンジ「古い日本のIT系会社と外資系コンサル会社の文化の違いの克服」と「コンサルティング事業の立ち上げ」。これからのチャレンジは次期社長候補として「顧客の経営ニーズに対し十分に理解した提案ができる組織になる」「国内のみで対応するIT産業は終わり。顧客のグローバル化に対応できる組織になる」を構築すること。

第三問:事業を起こせるリーダーに必要なスキルは何か?2つ挙げよ。
A3:
「どんどん顧客開拓できるスキル」と「いい仲間がどんどん育つ環境を作れるスキル」

*注:テスト問題の性質上、回答案は著者の視点からの回答案の一つであり、すべての答えを網羅的にカバーしているとは限りません。

 松川 孝一
 早稲田大学ビジネススクール客員教授
 株式会社大洋システムテクノロジー 取締役 専務執行役員
 コンサルティング事業「ハイブライド」マネージングパートナー



東京工業大学工学部生産機械工学科卒業。
プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社入社。PwCコンサルティング株式会社 執行役員 パートナー、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティングサービス株式会社 執行役員 パートナー 公益事業部長を経て現職。
また現職のかたわら、早稲田大学ビジネススクール客員教授としてIT戦略マネジメントの授業、学習院マネジメントスクール顧問・講師としてABC/ABMの授業を受け持つ。

主著に「図解ABC/ABM(第二版)」東洋経済新報社、共著に「MOT」入門日本能率協会マネジメントセンターなどがある。最近は日本一の経営者(の右腕)輩出企業の創造を目指して尽力中。ここまでの約8年間の間、月に10人以上、様々な会社のプロフェッショナル職のキャリア相談を受けている。
大洋システムテクノロジー:http://www.taiyo-st.co.jp/
ビジネスコンサルタント集団「HYBIRDE(ハイブライド)http://www.hybride.jp/」では、コンサルタントを積極採用しています。詳しくはハイブライドの求人情報から




2008-11-28 12:00:00
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