
第2部第1回:ケーススタディ1=コンサル系上場企業のオーナー社長A氏
実録!経営幹部行きキャリア 成功と失敗のケーススタディ
今まで、「第1部 経営幹部を目指す人のキャリア設計の考え方」という形で進んできたが、今回からは、第2部として「実録!経営幹部行きキャリア 成功と失敗のケーススタディ」と題し、私が今まで会ってきたさまざまな人々の事例を参考に、そのキャリアにおける成功と失敗の理由について考察したい。なお、各人のプライバシーを守るため、これらキャリア事例は似たキャリアを持つ複数人のものをベースに典型的なケースモデルに再編集しているのであしからずご理解いただきたい。
第1回では、輝かしい成功のキャリア体験を持つコンサルタント出身者であるA氏を紹介する。
A氏は学生時代から「30歳代で10億の資産を持ちたい」という明確な目標を持っていたと言う。そのため、A氏の経歴は無駄の無い、理にかなったものになっている。パワフルで自分を信じ、周りを巻き込んでどんどん前に進んでいくタイプである。
A氏の経歴
<20歳> 学生時代に学生組織のリーダー経験学生時代はスポーツ体育会の主将(キャプテン)を務める傍ら、ある国際的NPO団体に所属しており、日本人以外との交流を通し、グローバルな視点を持つに至っている。この組織でも国際的グループのリーダーを務め、大きな組織を動かす経験も早い段階で積んでいたようだ。この時代における政治家や企業トップ層とのやり取りなどもA氏の今後の自信のベースになっている。
<22歳> 外資系パッケージソフト会社の営業
学校を卒業し、早い段階で責任と権限を任せられる、かつその当時成長が著しい外資系パッケージソフト会社に就職した。この時点で「企業がどうやって顧客をゼロから開拓できるのか?」という重要な命題を実地体験として学んだはずである。また単なる営業活動だけでなく、同時に経営管理の根幹となる情報システムのしくみを理解し、経営管理者たちといろいろやりあったことは、彼の経営とマネジメントにおけるベーススキルを十分に身につけるチャンスであったと言えるし、十分にそのチャンスを自分のものにしたといえる。
<26歳> 外資系コンサルティングA社マネジャー
パッケージソフト会社の営業の経験を積んだ彼は、所属していたパッケージソフト会社の業績が下がりだすところで外資系の大手老舗コンサルティング会社のA社のマネジャーに転職し、再スタートする。営業力と経営陣との関係を早期に構築できる能力を最大限に活用し、自由にソリューションを開発しながら、コンサルティングビジネスを自ら開拓していた。コンサルティング会社におけるビジネス経験を通して、独自のサービス商品(ソリューション)の開発がビジネスのベースになることを学んだようだ。しかしながら、外資系であってもパッケージビジネス主体の老舗コンサルティング会社ということもあり、彼独自のビジネス手法が、メインの昇進モデルに合わず、再度転職を選択することになる。
<30歳> 外資系パッケージソフト会社の営業部門副社長
給料を大きくアップさせて、外資系パッケージソフト会社の営業部門副社長に就任。持ち前の営業力と人間関係構築力を最大限発揮し、A氏は多くの企業のマネジメントとのリレーションをどんどん構築していく。最終的には、この会社で構築したクライアントの人間関係をベースにもともと蓄えていた独自のサービス商品(ソリューション)を活用し、自らのビジネスを立ち上げることになる。
<32歳> ベンチャー系コンサル会社設立
もともと起業意識が高かった彼は、サービス業の根幹となるマスターデータをクリーンアップしながら、データ構造の設計支援するコンサルティング会社を立ち上げる。講演や雑誌、書籍などで積極的に自分を売り込みつつ、以前に構築した人間関係構築力を最大限発揮し、昔のコンサルや営業の仲間を巻き込みながら、会社はどんどん大きくなっていく。
<37歳> ベンチャー系コンサル会社上場
会社立ち上げから5年でついに、会社を上場させることになった。上場に伴い、一部の持ち株を売却して、10億円以上の現金と50億円以上の含み資産を持つことになった。学生時代から言っていた、「30歳代で10億の資産を持ちたい」という彼の夢は有言実行されたことになる。
今後の課題は、自分の事業をよく理解しながらさらに拡大できる能力のある右腕であり跡継ぎの育成であろうか。まだまだ精力的にビジネスを展開するであろうA氏であろうが、株主の手前、リタイアするのはまだまだ先であろう。
彼のキャリアから学ぶべきもの
A)高いキャリア目標と信念学生のときから言っている「30歳代で10億の資産を持ちたい」という明確な目標である。この目標が明確でかつ、ぶれていなかったからこそ、成功と失敗すべての経験をプラスに転じながら自分のキャリアの糧にできたのだと思う。大学時代から彼の行動の目線と行動指針はけっして「普通の大学生」や「普通の会社員」ではなく、明らかに「10億の資産を持つ経営者」のそれであったのではないかと思う。
B)リーダーシップ力
彼のキャリアのベースにあるのは、不動の自分の考えをベースに人を引っ張っていく力である。学生時代から体育会のキャプテンやNPOの国際的組織のリーダーを務めるなど、もともとリーダーシップを取ることが好きな人だったことが垣間見られる。このリーダーシップ力が早いうちについていたことは明らかに彼のキャリアにとってプラスであっただろう。
C)コミュニケーション=人間関係構築力
2回のパッケージビジネスの営業経験は彼のリーダーシップに加え、人間関係構築力を強化することに多いに貢献していると考えられる。営業の世界は「どれだけ売ったか?」に集約されるため、周りと同じやり方であろうが、独自のやり方であろうが関係なく結果が全てである。結果重視で動けるところが、彼にさらなる能力を植え付けたことは間違いない。
D)ソリューション開発力
リーダーシップと営業力だけでも、十分大きな仕事ができるが、A氏の場合は、多くの経営管理者を動員できる「コンテンツ=ネタ」を自分の頭で開発できる能力をコンサル会社在籍中に身に付けてしまった。この能力は彼の能力を「単なる営業出身者」から何倍もの価値のあるものまで高めており、この彼の会社を上場させる真の差別化要素としている。
E)跡継ぎ育成力
自ら製品(ソリューション)を開発でき、かつ顧客を自ら連れてくるスーパー営業力もある、カリスマ的な能力を持つA氏ではあるが、あまりにも能力が高すぎるため、自分の能力を超えるメンバーの育成に四苦八苦しているのではないか?自らのビジネスを誰かに継げない限り、一生忙しいままである。まだまだ30台のA氏であるからこそ。跡継ぎはゆっくり育成する余裕もあり、うらやましい限りである。
今回の成功事例を簡単にまとめると、この図のようになる。

今回から、「第2部 実録!経営幹部行きキャリア 成功と失敗のケーススタディ」の第一回ということで、私が今まで会ってきたさまざまな人々の事例を参考に、ある意味もっとも成功した種類のキャリアパターンの事例を紹介した。
次回は、同様に自ら起業したがなかなか成長させることのできなかった起業家の事例とともに、何故うまくいかなかったのかを考察する。
*注:なお、各人のプライバシーを守るため、これらキャリア事例は似たキャリアを持つ複数人のものをベースに典型的なケースモデルに再編集しているのであしからずご理解いただきたい。
ミニテスト2−1
第一問:A氏が成功した理由はなぜか?
第二問:A氏の今後の課題は何か?
第三問:第一問の理由の中で、彼の経験のすべてに寄与した最も大きな要因はどれか?また、それはなぜか?
前回(連載11回のミニテストと模範解答)
【ミニテスト11】
第一問:「プロフェッショナルビジネスの部長以上になる」能力条件を簡潔に述べよ。
A1:採用、育成、営業、スタッフケアの全ての面において模範的アウトプットを示せる能力がある必要がある。更に、新しい事業の企画創出など、一気に経営幹部の一員としての全方位的能力を求められることになる。思い通りで無い課題も素早く片付け、思い通りに自動運転されている状況に自分の組織と人材を持って行く能力。
第二問:「事業部長」と「取締役」の違いを述べよ。
A2:取締役は、あくまでも全社的な視点、限られた資源の最適配分の視点が必要となる。会社の限られた資源(資金・人材など)を配分されて、最大限のアウトプットを出すミッションは事業部長までとなる。ということで資源配分するのが取締役、資源配分されるのが事業部長と考えると違いがわかりやすいかもしれない。
第三問:「関連会社」を起こす際に気をつけなければいけない点は何か?
A3:十分な営業能力、採用・育成能力、など組織を大きくし、維持する基礎的能力が足りないまま、関連会社を立ち上げても、そのビジネスの規模は、その経営者の能力に依存するので、こじんまり成長しない会社を一生面倒見なくてはいけないような袋小路にはまる可能性があるので、十分な事業開発能力を身につけ、勝算を十分に確保してから会社や事業を起こすようにしたい。
*注:テスト問題の性質上、回答案は著者の視点からの回答案の一つであり、すべての答えを網羅的にカバーしているとは限りません。
松川 孝一
早稲田大学ビジネススクール客員教授
株式会社大洋システムテクノロジー 取締役 専務執行役員
コンサルティング事業「ハイブライド」マネージングパートナー
東京工業大学工学部生産機械工学科卒業。
プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社入社。PwCコンサルティング株式会社 執行役員 パートナー、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティングサービス株式会社 執行役員 パートナー 公益事業部長を経て現職。
また現職のかたわら、早稲田大学ビジネススクール客員教授としてIT戦略マネジメントの授業、学習院マネジメントスクール顧問・講師としてABC/ABMの授業を受け持つ。
主著に「図解ABC/ABM(第二版)」東洋経済新報社、共著に「MOT」入門日本能率協会マネジメントセンターなどがある。最近は日本一の経営者(の右腕)輩出企業の創造を目指して尽力中。ここまでの約8年間の間、月に10人以上、様々な会社のプロフェッショナル職のキャリア相談を受けている。
大洋システムテクノロジー:http://www.taiyo-st.co.jp/
ビジネスコンサルタント集団「HYBIRDE(ハイブライド)http://www.hybride.jp/」では、コンサルタントを積極採用しています。詳しくはハイブライドの求人情報から


