
第9回「どうやって経営幹部に近づくか?キャリアシミュレーション〜プロフェッショナル型キャリアの場合」
第一回では、『自分の人生の選択は自分の頭でよくよく考えて、自分で決めること』、そして第二回では、『リタイア直前の状態とリタイア直後の状態が、能力的かつ、経済的に、自分の希望とマッチしていてこそ「安定したいい余生」が保証されているといえるのではないか?』といった話をした。また第三回、第四回、第五回では7つのキャリア目標パターンとは悠々自適を目指すなら「経営幹部」か「経営幹部」を雇う人を狙うべきであるという話をした。
第六回からはキャリアマップを元に悠々自適へのキャリアプランについて述べている。前回までは大企業、中小企業に行った場合のキャリア特性について述べた。今回は、プロフェッショナル職を選んだ場合のキャリアをシミュレーションしてみることにする。
プロキャリア型のキャリア特性
ここでは、あえて、プロフェッショナルキャリアのみを抜き出して語ることとする。
ここでのプロフェッショナルとは、会社などの組織やブランドではなく、個人の能力のみでサービス(や製品)を提供し、直接顧客から対価をもらう職業のことである。プロであればあるほど、どのような環境でも通用する力を持っている。
逆に、確立されたブランドの元であったり、整備された組織や環境、上司などの下でしか仕事のできないスキルワーカーはここでは、「プロフェッショナル」と言うよりは「社員」と定義する。
プロフェッショナルの例としては、医師、弁護士、会計士、税理士、建築士、デザイナー、美容師、介護士、プロスポーツ選手、傭兵、企業再生専門のプロ経営者、コンサルタント、システムエンジニア、採用支援エージェントなどが思い浮かぶ。
もちろん、「プロフェッショナル」はいきなり学校を出ればなれるものではないので、一般的にはどこかの組織と先輩の下で「修行」を繰返して、育つものであることは確かだ。
一般的には大学・専門学校などで専門の教育を受け、卒業した後、実戦経験を積むため企業や組織に所属して一人前になるまで経験を積むことになる。この「一人前」の定義が難しいが、私はかねてからこの一人前の定義として「クライアント(顧客)から個人的に指名され、組織を離れても、それだけで自分の分は最低限まかなえるのが一人前の条件」と考えている。
個人的に指名されなければそもそも話しにならないし、自分の力で組織を食わせているならまだしも、組織に食わせてもらっている間は一人前のプロとはいえないだろう。
自分には無理と悟って逃げ出す人
プロを目指していたのに、一人前になる前にやめて一般企業などに移ってしまう人たちがいる。
「一人前でもないのに自分で勝手に一人前になったつもりで他に移る人」と
「自分には無理と悟って逃げ出す人」
の2種類あるが、どちらにしても、その後のキャリアはあまり、期待できない。
移った先には、キャリアをコツコツと積み上げてきている現業の人たちが「この人にはいったい何ができるのか??」という見方で手ぐすね引いて待っていることになり、相当な針のムシロを覚悟する必要がある。そもそもプロにあこがれていた人が、泥臭いそれ以外の仕事場で何かをやりきることが果たしてできるだろうか?
逆に一人前になるレベルまでやり切れれば、後はどんどん能力を向上させながら、サービスの差別化を進め、クライアントからもらうサービス対価を大きくしていく方向と、自分の分身たる、プロをどんどん育てて、その分の「あがり」をベースにビジネスを大きくする「育成、マネジメント」の方向性が考えられるだろう。
前者は独立プロフェッショナル業であろうし、後者はプロフェッショナルファームの(オーナー)経営者となるキャリアパスだ。また、プロを極めると、多くの人が、お金を払ってでもそのノウハウを得たくなるわけで、学校の先生や大学教授へのキャリアも狙えることになる。弁護士や会計士、コンサルタントなどのプロになれれば、そのまま、プロのキャリアを生かして、通常の企業に入り込み、プロの経営者を目指す方向もあるだろう。
プロフェッショナルの道を目指すのはもっとも理にかなった近道
私はかねてより、ビジネスには、物を提供するビジネス、設備を提供するビジネスと人を提供するビジネスの3つがあると考えている、物を提供するビジネスはいわずと知れたメーカーや卸、小売業だ。
設備を提供するビジネスは、レストランや学校、病院、物流、通信などがそれにあたる。
人を提供するビジネスこそプロフェッショナルファームや人材派遣業である。
この中で、人を提供するビジネスは、大きな資本が無くても始められるし、競合の登場により一気にビジネスがだめになってしまうようなリスクも無い、安定的に積みあがるビジネスと考えられる。この人材ビジネスの中でももっとも高付加価値なビジネスがプロフェッショナル提供ビジネスであるともいえる。
悠々自適が狙える三大リタイア時キャリアであるオーナー社長、独立プロフェッショナル業そして企業経営者のどれも狙えるキャリアとして、プロフェッショナルの道を目指すのはもっとも理にかなった近道と言えるだろう。
キャリアマップを描く前に、プロフェッショナルのキャリア特性に付きまず整理する。
<長所>
☆早いタイミングから顧客に評価され、自立を求められるので力がつく。
☆一人前になればどこに行っても、何をしても自由。
☆一人前になれば、一般的に同世代の普通の会社員より給料が高い(1.5倍から10倍以上)。
☆将来的にローリスクでハイリターンなプロフェッショナルファーム事業を立上げ、運営するチャンスがある。
☆弁護士や会計士、コンサルなど、一般企業経営に必要なスキルがついていれば、普通の企業経営にキャリアチェンジできる。
☆プロであるということが自立していると言うことで、それ自体、生き方として誇らしいことかもしれない。
<短所>
★見習い時期における企業のブランドがほとんど無い場合も多く、有名でもないので、家族や友人などの他人に説明するのが大変なケースが多い。親や親族、彼女(彼氏!?)も周りの人には会社名というよりは職業名で説明するしかない場合がありえる。
★自分を「個」としてどのように確立させるかが勝負なので、大企業では当然培われる、いわゆる「組織の掟」のような一般的な常識がつきにくく、また組織の一員として本来なすべきことを経験せずに成長してしまうリスクがある。
★プロフェッショナルの世界は、システマチックな教育制度が難しいため、ほとんどの場合、先輩の技を盗むか、自力でスキルをつける必要がある。(むしろその方がより生き残りパワーがつくともいえるかもしれない)
★自分を高め、やり切り、生き残る力をつけられないと、プロどころか組織内でも生き残れない中途半端な人材に成り下がる危険性がある。
★一人で食べられるように比較的早くなるため、組織に我慢できないとすぐ飛び出すようなキャリアになり、人的ネットワークが希薄な後半人生を送るリスクがある。
プロフェッショナルのキャリアパス
先にも述べたとおりプロフェッショナルは最初からプロでスタートすることは無いため、どこかの組織に属して、プロのスキルを積むことになる。この組織ではいわゆる集合的研修で基本的なセオリーを積み、応用的なサービス提供方法については現場研修(いわゆるOJT)で先輩のやりかたを見習いながら力をつけるのが一般的だ。
プロとして一人前になるのは先に述べたとおり、クライアントから指名があったときがその目安とすると、短い職種(SEなど)で1〜3年、長い職種(芸術家など)では10年以上かかるものもあるかもしれない。通常であれば30歳になる前にはプロとして何がしか一人前になっていることが多いだろう。

プロとなったら、
(1)一人で独立してビジネスを始めても良いし、
(2)クライアントに呼ばれて会社員になるケースもあるだろう、また、
(3)そのまま組織に残って、他のプロを採用・育成するノウハウを十分積んでから40歳前後で自分のビジネスをはじめても良い。
(4)またはそのまま専門性をどんどんつけ、ノウハウを発信しながら業界をリードする存在になる
このなかでは(3)がその後のビジネスの拡大が確実に狙えるので、プロより事業家を目指すのであれば最も賢い選択であろう。
このように、人材ビジネスの立上げ経験が組織内で奨励されながら簡単に経験できるのも、プロフェッショナル(人材)ビジネスの有利なところである。
(2)を選択する場合もみうけられるが、せっかくプロの能力がついて、青天井の収入が狙えたのにもかかわらず、それを選択しないのは、すこしもったいないキャリア選択かもしれない。(2)を選択した後、物足りずに(1)や(3)のキャリアを目指して戻ってくる人たちも少なくない。
(4)のケースもプロとしては捨てがたい道である。個としてブランド創造は必ず本人の将来キャリアにプラスに働くことになる。
ここでは(3)プロの組織構築経験と(4)プロとしての専門性向上を二者択一的に説明しているが、プロの専門性にもよるが、たいていの場合、この組織マネジメントと専門性向上は両立するものと認識している。
つまり、プロ(又は見習い中)の後輩がたくさんいればいるほど、一人でやっているケースより、後輩の経験を同時に積める分、専門性がより付くというロジックである。後輩の仕事の手直しや育成をしている間に専門性はどんどん効率的に積むことができるとも言える。
30歳で一人前になり、40歳でマネジメント経験を積んだら、50歳までにそれまでいた会社に出資してパートナー役員(共同経営者)になるか、独立して自分のプロフェッショナルファームを作るのが一般的に成功と言えるキャリアパスと言えるのではないか。
リタイアまでに、この役割の元、仲間をたくさん増やし、さらに専門性を積んで、個と組織のブランドを構築し、経営経験をどんどん身につけ、会社を大きくできたらとてもわくわくする人生だ。リタイア前にはオーナー社長でも、共同経営者でも大学教授でもなんでも選択できることになる。
このプロキャリアで、何よりも気をつけなければいけないのは、自分の専門性とマーケットニーズとのギャップである。入社した組織やブランドにおいてのみ重宝される専門性を身に着けているのにもかかわらず、勘違いにより、自分がさもオールマイティのプロになったような気持ちになって外に飛び出してしまう人もいるが、結局同業他社を転々とするしかなくなり、キャリアダウンを余儀なくされる可能性が高い。
「自分の専門性とスキル」とマーケットにおける汎用性を客観的にどこまで把握評価でき、自分のキャリア選択に生かせるかどうかが、プロ人生の成否の分かれ道となるだろう。
ミニテスト9
【ミニテスト9】
第一問:プロフェッショナルの定義を述べよ。
第二問:プロフェッショナルとして一人前になったと認識できる出来事はなにか?
第三問:「専門性を積むこと」と「プロ組織をマネジメントすること」が相反することなく、相乗効果を発揮することがありえるのはなぜか?
前回(連載第8回)のミニテストと模範解答
ミニテスト8
第一問:
中小企業に行く人たちはモチベーションの視点で「ピンとキリ」の2つの集団に分類できるというがそれは何か?
A1:「ピン」は言うまでも無く「中小企業を積極的に選択してやってきた集団『自主選択組』」である。逆に「キリ」はさらに言うまでも無く「大企業に行きたかったけど行けなくて仕方なくやってきた人たち『大企業志向負組』」である。
第二問:
会社が傾きだすと、すぐに対応しなければいけないのが中小企業の辛さともいえるが、経営を目指す人にとってはチャンスになりえるという。それはなぜか?
A2:もし自分の将来キャリアとして経営を目指すつもりがあるなら、会社が傾きだしたときが、経験を積むチャンスである。自分が将来経営する会社をつぶさないようにするために、また傾いたときに迅速に確実に対処するスキルをつけるためにも、会社が傾くところ、正常に戻す方法など若いうちに身をもって経験しておくとよい。
第三問:
経営者を目指すなら中小企業でキャリアを積むのが、大企業に比べ最速で無駄がない選択とも言えるが、その前提条件は何か?
A3:自分が自立、独立していることを意識していて、自分自身の目と判断を信じることができること
*注:テスト問題の性質上、回答案は著者の視点からの回答案の一つであり、すべての答えを網羅的にカバーしているとは限りません。
松川 孝一
シンクログローバル株式会社 代表取締役社長
株式会社日本ピーエスエス 代表取締役社長
早稲田大学商学研究科、早稲田大学ビジネススクール 客員教授
早稲田大学IT活用新ビジネス研究会 副理事長
学習院マネジメントスクール 講師・顧問
東京工業大学工学部生産機械工学科卒業。
プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社入社。PwCコンサルティング株式会社 執行役員 パートナー、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティングサービス株式会社 執行役員 パートナー 公益事業部長、株式会社大洋システムテクノロジー取締役を経て現職。
また現職のかたわら、早稲田大学ビジネススクール客員教授としてIT戦略マネジメントの授業、学習院マネジメントスクール顧問・講師としてABC/ABM、プロジェクトマネジメントの授業を受け持つ。
主著に「図解ABC/ABM(第二版)」東洋経済新報社、共著に「MOT」入門日本能率協会マネジメントセンターなどがある。
ここまでの約10年間の間、計500人以上の様々な会社におけるのプロフェッショナル職のキャリア相談を受けている。
現在、従来からのコストダウン、シェアアップのコンサルティングに加え、新しい事業コンセプト・事業モデルの開発にチャレンジ中。
http://www.syncgl.com/【シンクログローバル株式会社】
http://www.winb.org【早稲田大学IT活用新ビジネス研究会】

