
第8回:「キャリアマップ〜中小企業社員型」
第一回では、『自分の人生の選択は自分の頭でよくよく考えて、自分で決めること』、そして第二回では、『リタイア直前の状態とリタイア直後の状態が、能力的かつ、経済的に、自分の希望とマッチしていてこそ「安定したいい余生」が保証されているといえるのではないか?』といった話をした。また第三回、第四回、第五回では7つのキャリア目標パターンとは悠々自適を目指すなら「経営幹部」か「経営幹部」を雇う人を狙うべきであるという話をした。
第六回はキャリアパスの設計手法であるキャリアマップに付き述べ、第七回は大企業に行った場合のキャリア特性について述べた。今回は、あえて中小企業を選んだ場合のキャリアをシミュレーションしてみることにする。

1)中小企業社員のキャリア特性
ここでは、まず、「大学出たら、中小企業に行き、現場経験を積んで次のステップへ」とこれもごく普通の人生を開始した場合のキャリアマップを描いてみる。ただし、プロフェッショナル職を専門として扱う企業はここでは除くこととし、プロフェッショナル職は別途考察する。
まず、考察しなければいけないこととして、中小企業に行く人たちはモチベーションの視点で「ピンとキリ」の2つの集団に分類できるということである。
「ピン」は言うまでも無く「中小企業を積極的に選択してやってきた集団『自主選択組』」である。逆に「キリ」はさらに言うまでも無く「大企業に行きたかったけど行けなくて仕方なくやってきた人たち『大企業志向負組』」である。
当然『自主選択組』はこの中小企業のいいところを当初の予定通り、ガンガン吸収して自分のキャリアに生かすであろう。片や企業によっては『大企業志向負組』の方が多い会社も多いかもしれないが、この集団はあえてモチベーションの方向性を変えない限り、何時までも『負組』で、大企業に対するノスタルジーにはまり、歯車的に与えられるがままの仕事を繰り返し、いやなことは会社のせいにして、中小企業のいいところを吸収するのに遅れること間違いない。
ここで、自ら『大企業志向負組』のままでいる人たちを救うのはかなり困難なため、あえて無視、もともと中小企業を選んできた、ないしは『自主選択組』に転向した社員のキャリア特性に付き考察することとする。
キャリアマップを描く前に、中小企業の社員として新卒で入った場合にありえる、本人の志向や環境により、セットされるキャリア特性に付きまず整理する。
<長所>
☆小さい組織だからこそ持てる一体感と自立感、独立感に基づくモチベーション。
☆業績が伸びていれば人不足でポスト無制限。
☆管理部門や経営者も身近な存在なので、経営感覚が身につきやすい。
☆責任と権限が小さい範囲で一体化しており、責任を果たせればどんどん権限が与えられることになり、キャリアの幅も広がるし、キャリアのスピードも期待できる。つまり「責任を果たせばやりたい放題」の良さが享受できる。
☆危機もチャンスも早く来て、早く解決するので、自分のものとして対処すれば、ビジネススキル、経営スキルが早くつく。
☆小さい会社を大企業に持っていく過程を肌で学べるのも中小企業に入った人のみの醍醐味。
<短所>
★ブランドが無く、有名でもないので、家族や友人などの他人に説明するのが大変である。親や親族、彼女(彼氏!?)も周りの人に簡単に自慢できないので、あまりうれしくない場合や極端な場合、反対する場合が多い。
★大企業だからこそある、「同じ会社の誼」といったゆるいかたちの大量の人脈形成が難しい。
★大企業では当然培われる、いわゆる「組織の掟」のような一般的な常識がつきにくい傾向がある。
★教育制度が充実していない場合が多く、殆どの場合自力でスキルをつける必要がある。(むしろその方がより生き残りパワーがつくともいえるかもしれない)
★大企業に比べ、資本力も資産も少ない場合が多いので、企業としての存続性に欠ける場合が多い。
★会社を引っ張ってきているオーナーやキーとなる役員との相性で後半のキャリアが左右されるリスクがある。
2)中小企業社員のキャリアパス
中小企業社員のキャリアパス、比較的おなじみの、社員>課長>部長>事業部長>取締役>社長のように階段を登っていくかたちになる分には大企業とあまり変わりない。人が少ない分キャリアの段階は少ないしキャリアパスは短い。
「昇進の早さ遅さ」、「抜擢人事をするかしないか」など、企業によりいろいろな違いはあるが、早くて30歳台で部長、40歳台で事業部長、まれに取締役、50歳台で社長。といった感じで、大企業より10年ほど早く昇進するチャンスがあると考えていいだろう。
中小企業では、いい仕事が出来て、責任を果たせていれば、次々と様々な課題が降りかかってきて、どんどんスキルが付き、それに応じたポストも用意されることになる。
逆に受身でいても、大企業並みに仕事はこなさなければいけないので、キャリアを特に狙わず普通の社員でいても特に問題はないだろう。多少の福利厚生や給与が大企業より多少薄い可能性はあるが法律で労働者の給与は法律で守られているので、日本の場合はあまり大企業と大差ない場合が多い。
会社が傾きだすと、すぐに対応しなければいけないのが中小企業の辛さで、給与削減やリストラなどのマネジメントアクションが起こる可能性も高いので、全社の業績の動向は意識して見ておく必要がある。
もし自分の将来キャリアとして経営を目指すつもりがあるなら、会社が傾きだしたときが、経験を積むチャンスである。自分が将来経営する会社をつぶさないようにするために、また傾いたときに迅速に確実に対処するスキルをつけるためにも、会社が傾くところ、正常に戻す方法など若いうちに身をもって経験しておくとよい。
中小企業でもやはり昇進が早いと思われるのは、客観的な数字で評価されやすい営業職だろう。客観的な数字などで評価されにくい他の部門出身でも、中小企業であれば早く昇進することもありえるが、会社の経営は顧客で成り立っていることには変わりないので、キャリアの一環で、一度、営業を経験させられる可能性が高い。
中小企業の経営者はいつも経営できる人材不足で困っているはずなので、顧客をどんどん開拓できる営業出身者のことは誰よりも大好きなはず。また、足を引っ張る人たちもライバルも少ないので、キャリア最速は中小企業のトップ営業にあると考察できる。
20歳台で中小企業のトップ営業、30歳台で部長を経て事業部長兼新規事業の責任者、40歳台前半で取締役兼子会社社長、40歳台後半か50歳台前半で社長就任でというのが理想的な中小企業の最速キャリアだと思われる。
小さい会社なら経営者になってから自社株の取得も比較的しやすいだろうから、生え抜きからオーナー社長を目指すのも会社によっては可能だ。
なにより小さい会社を大企業に持っていく過程を学べるのも中小企業に入る醍醐味である。自分が自立、独立していることを意識していて、自分自身の目と判断を信じることができ、将来経営者を目指すのであれば、中小企業をキャリア選択として選ぶのは、大企業に比べ、最速で無駄のない選択肢だと考える。
ミニテスト8
【ミニテスト8】
第一問:
中小企業に行く人たちはモチベーションの視点で「ピンとキリ」の2つの集団に分類できるというがそれは何か?
第二問:
会社が傾きだすと、すぐに対応しなければいけないのが中小企業の辛さともいえるが、経営を目指す人にとってはチャンスになりえるという。それはなぜか?
第三問:
経営者を目指すなら中小企業でキャリアを積むのが、大企業に比べ最速で無駄がない選択とも言えるが、その前提条件は何か?
前回(連載第7回)のミニテストと模範解答
ミニテスト7
第一問:
大企業内でのキャリアの最も一般的なものはどのようなものか?X0歳台でXXのように回答せよ。
第二問:
まずは大企業に入社するとしても、将来キャリアに幅を持たせたければどのようなキャリアがありえるか?
第三問:
大企業内でのキャリアを早めるにはどのような業務が望ましいか?またそれはなぜか?
【ミニテスト7(回答案)】
第一問:
「昇進の早さ遅さ」、「抜擢人事をするかしないか」など、企業によりいろいろな違いはあるが、早くて30歳台で課長、40歳台で部長、50歳台で事業部長、まれに取締役、60歳台で社長。といった感じであろうか。
第二問:
大企業にいながら早いタイミングで昇進することができ、30歳台の前半で役職者(例えば部長職以上)になれれば、大企業組織マネジメントを早くから実施してきた武器を生かして、中小企業経営やプロフェッショナル職にキャリアチェンジすることも可能な場合がある。様々なIT企業や中小企業の経営者、経営コンサルタント等は、大企業の若手エースからの転進組が少なくない。
第三問:
営業職。客観的な売上などの数字で評価されやすいから。
*注:テスト問題の性質上、回答案は著者の視点からの回答案の一つであり、すべての答えを網羅的にカバーしているとは限りません。
松川 孝一
シンクログローバル株式会社 代表取締役社長
株式会社日本ピーエスエス 代表取締役社長
早稲田大学商学研究科、早稲田大学ビジネススクール 客員教授
早稲田大学IT活用新ビジネス研究会 副理事長
学習院マネジメントスクール 講師・顧問
東京工業大学工学部生産機械工学科卒業。
プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社入社。PwCコンサルティング株式会社 執行役員 パートナー、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティングサービス株式会社 執行役員 パートナー 公益事業部長、株式会社大洋システムテクノロジー取締役を経て現職。
また現職のかたわら、早稲田大学ビジネススクール客員教授としてIT戦略マネジメントの授業、学習院マネジメントスクール顧問・講師としてABC/ABM、プロジェクトマネジメントの授業を受け持つ。
主著に「図解ABC/ABM(第二版)」東洋経済新報社、共著に「MOT」入門日本能率協会マネジメントセンターなどがある。
ここまでの約10年間の間、計500人以上の様々な会社におけるのプロフェッショナル職のキャリア相談を受けている。
現在、従来からのコストダウン、シェアアップのコンサルティングに加え、新しい事業コンセプト・事業モデルの開発にチャレンジ中。
http://www.syncgl.com/【シンクログローバル株式会社】
http://www.winb.org【早稲田大学IT活用新ビジネス研究会】

